「燃えた……。燃え尽きたよ……。真っ白にな……」

 そう呟くと俺は、何故か教室の隅に置いてある丸椅子に腰掛けた。

「横島さんっ! どうしたんですか? 横島さん!」

 芸人魂(大阪育ち)を刺激され、あ○たの○ョーごっこをしていた俺に、心配そうに声をかけてきたのは、小鳩ちゃんだった。







「聖母」

                                                                   written by まちす







「横島さん、まさかテスト……駄目だったんですか?」
「いや、テストは大丈夫……なはず。ただちょっと疲れてね」

 そう、俺はテスト――といっても高校の追試だが――を受けていたのだった。
 それも日曜日を丸一日使って。今まで受けたことの無い追試を、なぜ受けねばならなかったかのか。
 その理由は、校長の

「チミ、留年ね」

 の一言にある。このまんがの時間の流れがどーなっとるのかはともかく、留年はまずい。
 「一回言ってみたかったー!」と叫ぶ校長とハートフルな交渉を重ね、留年回避の条件が出された。
 その条件とは、一週間無遅刻(もちろん無欠席)・毎日の補習参加・追試で全教科70点以上(最初は90点以上だった)。
 70点よりラインを下げようと、交渉を続ける俺に出された条件は、補習一週間を一ヶ月に。というこの上なく厳しいものだった。すごすごと引き下がる俺に、校長が一言、


「霊能力を使ってズルしたら、チミ、退学ね」
   
 
 ……心底嬉しそうな校長が、心底憎かった……


 そんな訳で猛勉強――の前に、美神さんに一週間お休みの許可をもらわねばならんかった。

「ふーん、一週間も休むんだ。クビ」という言葉を覚悟していたが、

「ふーん、いいわよ。がんばんなさい」

 ……あっさり許可してくれたうえに、励ましてくれた。……だが、なにより信じられないのはっ!

「補習の間、毎日ご飯食べに来ていいわよ。帰りの電車賃も出すし」

 これ。これですよ。今でも信じられんこの言葉。最近機嫌がいいとは思っていたが、ここまでとは。
 どうも、俺の記憶が半日飛んでいる日に何かあったらしいが、おキヌちゃん達は機嫌が悪くて聞ける雰囲気じゃないし。
 美神さんは……原因不明で機嫌のいい美神さんほど怖いものは無いと思わんか?

 聞いた直後の俺は、よっぽど変な顔をしていたのだろう。美神さんは顔を赤くしながら

「い、嫌なら別にいいわよっ! どうするの!?」

 言いながら顔を背けてしまう。壊れたように縦に首を振る俺に、咳払いをしながら

「……ただし、留年したら、即クビ」

 一言付け加えるのを忘れませんでしたよ。

 そんな訳で連日補習の日々が始まった。休み時間にはピートや愛子にも勉強を教わった。
「休み時間に友人に勉強を教える! 青春だわっ!」
 ……愛子はものすごく嬉しそうだった。
 彼女には追試後に、補習・追試と使用したシャーペンを手渡した。

「愛子…あんたに持ってて欲しいんだ……これ……」(芸人魂)
「青春よっ! 青春だわっっ!! これこそ青春だわっっっ!!!」

 シャーペンを握り締め、涙を流しながら机に戻ってしまった。今までにない喜びっぷりだったな……。

 美神さんの事務所から帰る電車の中では英単語帳を読む。……しかしもえる英単語帳だぜこれは……。

 家に帰るとまた勉強。この勉強には小鳩ちゃんが付き合ってくれた。
 彼女はわざわざ俺を待っていてくれて、

「一人でするより二人でするほうが楽しいですから」

 そう言って、はにかむ小鳩ちゃんに見とれてしまったのは秘密だ。
 勉強が終わると銭湯に一緒に行き、二人手をつなぎ、他愛も無いお喋りをしながら帰る。そして、それぞれの家の前で「おやすみなさい」

 朝には起こしにきてくれて、「おはようございます」の挨拶を交わす。
 二人で朝ごはんを食べ、並んで登校。おかげで無遅刻・無欠席。
 このやりとりが嬉しくって、なんとか一週間頑張れたようなもんだ。

 美神さんの事務所での晩御飯は……雰囲気が怖いんだよぅ。


 まあ、そんなこんなで一週間が過ぎ、追試も今さっき終了。しかし疲れた、本当に眠い。
 丸椅子に座ったまま船を漕ぎ出した俺を、小鳩ちゃんはその胸に優しく抱きしめ、頭を撫でてくれた。
 今はこの温もりと感触が心地いい。少し眠ってしまおうか。
 だいぶ眠り始めた俺の意識に、

「横島さん。小鳩は横島さんと一緒に戦うことはできません。
 だけどこうやって支えてあげることはできます。
 いつか堂々と横島さんの隣に立てるまで、小鳩、負けません」

 彼女のそんな声が聞こえた。








  <完>







・おまけ1
「くぅーっ! 疲れきった愛しい人を胸に抱きしめ、頭ナデナデ。青春だわっ! 羨ましい!
 それにしても、あれがパフパフなのかしら? 小鳩さん、やるわね!」

 机の中から二人の様子を覗き見し、嫉妬心とドキドキ感に心を焦がす愛子嬢であった……。

「今度は私が横島君に……キャッ(ハート)」

 ……後、期待(野望?)もらしい……


・おまけ2
「ふむ」
 放課後、校内を見て回っていた暮井緑教師(本体)がその光景を目にし、一つの作品として仕上げる。
 後日その作品は、展覧会に出展され、見事入選する。
 その作品を目にした人の感想は様々であったが、横島はその月の給料が全額カットになったらしい。
 あぁ、ちなみにその絵のタイトルは……。










  あとがき
 確かこれを書いていた時期って、ものすごく疲れていたような記憶が…
 ちなみにこのお話、パフパフシリーズ第二弾だったり。


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