奇妙な取り合わせの三人とは彼らの事だった。
氷室キヌ、シロ、タマモの三人がそれぞれの理由でしばらく除霊の仕事に参加できないことを知ると、二人は美神の仕事を手伝う事を申し出たのだった。
仕事の手伝いは学校の授業単位に振り替える、という事で二人にバイト代を払う必要のないことを知ると、美神は一も二も無くその申し出を承諾した。
二人っきりのチャンスを潰された横島は、血涙を流し、悔しがった。
が、女子高生が増えるという事に気づき、やはり血涙を流し喜んだ。
仕事の方は多少のピンチはあったが、四人がかりであっさりと終わった。
その帰り道、美神は母親からの電話でオカルトGメンのビルへ直行。
横島と二人は厄珍堂へ寄ってから事務所へ戻ることとなった。
なったのだが……。
「……あの、お二人とも、直帰してよいと美神さんはゆっておりましたが……」
恐る恐る二人に向かい話しかける横島。
そんな彼をチラッと見やってから、
「おねーさまは今、シャワーを浴びていますわね」確認するように言い、更に続けて「二人っきりにしたら覗くでしょ、あなたは」
「覗くな。こいつなら」
二人の息の合ったコンビネーションにたじたじの横島。
「いやだなぁ。覗いたりなんかしないよ。仕事の前とか最中ならともかく」
「はぁ、まったく。嘘をつくならもっとばれないような嘘をつきなさいよ」
「ん? なんだ、てことは仕事の後はセクハラしないってのか? 横島さんは?」
「そう。いいところに気づいたね。一文字さんは」
突拍子も無い事を言い出した横島に対し、あきれるだけの弓だったが、魔理の方は何かに気づいたらしい。
いぶかしげな視線を向ける弓を無視し、二人は話し出す。
「俺が飛び掛ると美神さんが攻撃してくるだろ?
その一撃でその日の美神さんの攻撃力を計るわけだ」
「勿論。誰かさんは霊力の無駄遣いだって言ってたけどね」誰かさんの部分で弓をチラッと見て続ける。
「あれで二人のその日の霊力の状態をみるわけ」
「あぁ。あいつはそれでいいの。あそこで冷静に見ていられるかどうかでタマモの精神状態がわかる。
うちで一番冷静なのはあいつだからなぁ」
「あなたには分かるというんですか? 何か意味があるんですか?
絶体絶命のピンチでおねーさまに抱きつく事に? 意味ですって?」
ヒートアップする弓に対し、やれやれといった感じで呆れ顔の二人。
少し勝ち誇った感じで説明しだす魔理。
「確かにあの時は弓が言ったとおりピンチだった。美神さんも軽くパニックになってたしな。
けどそこで横島さんが飛び掛ってどうなった?」
「まだ気が付かないのか? ほんとにか?
それを言った後で美神さんは冷静になったろ? つまりはそういうことさ」
横島に対し、ひたすら謝り続ける弓。近年稀に見る素直さだ。雪乃丞が見ていたらびっくりだ。
と、突然
「……アーハッハッハッハッハーーーー!!! ダメだ! 横島さん、あたしはもうダメだ!! ごめん! ハハハハハハハ、あーおかしい!!」
魔理が大爆笑しだす。
「あーもう。もうちょっと引っ張りたかったのに。でもここまで素直な弓さんも珍しいねぇ」
「はは。ごめんね弓さん。でもここまで引っかかるとはねぇ。
でも弓さんはもっと駆け引きを覚えないと。簡単に騙されすぎだよ」
それまで俯いて黙っていた弓だったが、真っ赤な顔を上げて怒り出す。それを見た魔理がまた笑い出し、更に弓が怒る。
しばらくそんなやり取りが続き、ようやく落ち着くまでおよそ十分。三人は淹れなおしたコーヒーや紅茶を飲み始める。
と、まだ少し赤い顔をした弓が口を開く。
「違うって。そんな事もする必要が無いし。
ん〜。本当は内緒にしておきたかったんだけど、まぁしょうがないか。
二人とも、おキヌちゃんたちには内緒だよ、絶対に。約束できる?」
またもや急に真顔になる横島。
弓はもう騙されないとばかりに身構え、魔理の方は期待に満ちた顔で横島を見ている。
「実は、俺と美神さん。付き合ってるんだ。それも大人のお付き合い。
意味は分かるよね、二人とも。
だから敢えてシャワーを覗く必要も無い」
「だめだ、横島さん。流石にそれには乗っかれない。ばればれだよ。無理無理」
「なんだやっぱり嘘なんですね。今度は騙されませんよ」
「ほんとほんと。こればっかりは本当。
美神さんそろそろ怒ってるかもしれんなぁ。
『せっかく二人っきりなのに、何で入ってこないかーーー!!!』
ってな。はは」
弓の言葉に苦笑しながら答える横島。
魔理が何か言おうとした瞬間――
バスタオルを身に着けただけの美神が部屋へと入ってくる。
横島は、美神のパンチを受け流し、優しく抱き止めると、弓と魔理を指す。
「あ、あら二人ともいたの? 直帰していいって言ったはずだけど」
「お、おねーさま!!! 不潔ですわっ!!!!」
うろたえる美神の言葉が届いていたのかどうか分からないが、思いっきり百合っぽい叫びを残して走り去る弓。
どうしていいか分からず、おろおろしている魔理。
「……ちょっと調子に乗りすぎたかしら?」
「弓さん、泣いてましたねぇ。ちょうどすごく油断してたところだし」
横島に抱きすくめられたまま、頬を掻きながら美神が呟く。
「あ〜、参ったわねぇ。魔理ちゃん、ごめん。フォロー頼める?」
「あっ、は、はい。分かりました。すぐ追いかけます」
からかいすぎた事に対し、少しバツが悪そうな二人。
フォローを頼まれた魔理は、すぐ走り出す。
慌てて走り出した魔理だったが、明日からの予定を聞いていない事を思い出し、部屋へと戻る。
が、ドアを開けたところで動きが固まる。
「魔理ちゃんも行ったし、今度こそ二人っきりね」
「そうですね。にしても美神さん、そんな格好でいると風邪ひきますよ」
「こぉら! 二人っきりの時は、『令子』でしょっ。もうっ」
「はいはい、そうでしたね。あー、れ、令子……さん」
魔理が見たのは、嬉しそうに抱き合いながら、甘々な会話をする二人。
そこまで聞いたところで二人と目が合う。
「あら、魔理ちゃんまだ居たんだ。覗きは良くないわよ」
「見られちゃいましたね」
大声で叫ぶと、再び走り出す。
残された二人は、
「今度こそ本当に二人っきりね」
「そうっすね」
「冷えちゃったし、もう一回シャワー浴びようかな。…一緒に浴びる?」
「浴びます」
「……する?」
「……します」
・おまけ
「ほら、終わり終わり。離れた離れた」
「えーー! そんなー、これから二人でくんづほぐれつ読者サービスをーー!!」
「そんなもんない!!」
「うう、あんまりや。こないなところで終了なんて……」
「みんな騙されたみたいだからいいじゃない!! あ〜面白かった」
「…………」
「人工幽霊壱号、もう映像ストップしていいわよ」
『了解しました』
あとがき
生意気にもスランプなぞに陥り、このままではSS書けなくにゃるかも!!
とゆー、強迫観念に襲われ書いた作品。
一文字魔理さん、彼氏ともども喋り方が良くわからん……。