・おまけ〜そのいち




「ただいま」

 そう声をかけて、柊家の玄関に入る。
 と、

「イカ! 遅い! アタシがお風呂から出るまでに準備しとけって言っただろ!!」

 予想はしてたけど、早いよアンタ。
 ゲシゲシと蹴りを見舞いながら、「遅い! このグズ!」と罵ることも忘れないツインテール。

「ちょっと待って、ツイ……じゃない、姉貴!」
「あぁ!! イカが口答えしてんじゃないわよ! イカなんだから!!」

 もう何言ってんだか解んないよぅ、姉貴。
 でも怒られるのは解ってたから、ちゃんと貢物も用意してあるのだ。

「こ、これを、これをお納めください」
「あぁ!? 少女漫画だ!? こんなの大人の女のアタシが読むわけ無いだろうが!!」

 起死回生の一発は、見事に空振りました。いや、本命はその中なんですよう。
 つーか、大人の女がパンツ見せながら奇声を発して蹴りをくれる、ってゆうのはどうかと思うよ。

「グフォッ」

 油断してたら一発いい所に入った。
 いいキック持ってんじゃねえか、ツインテール。

「……ち、違う。な……中身………別冊の……ふ、付録で……す」
「付録がどうしたっていうのさ!!」

 文句を言いながら、物凄い勢いで包装のビニール袋を破り、別冊付録を手に取る姉貴。
 そんな様子を、チカチカするまぶたの裏の星と共に見る。
 ……全然美しくない。さっきまでの美しかった夜空を返せ!
 誰かこの横暴ツインテールに、美しさとは何かを教えてやってください。
 美しさを追求している、魏国の将軍に救援を要請していると、蹴りが止んだ。
 かかったな! 兵法を知らぬ凡愚めが!!

「……こ、これは!!」

 そう、姉貴が手にしている別冊付録は、化粧の仕方から姿勢の矯正方法、そしてバストアップの方法が書いてあるのだ!!

「買おうかどうしようか迷いましたが、姉貴のために恥を忍んで買って参りました」
「イ、イカ。……あんた、あんた……」

 実際の話、女性二人が一緒だったので恥ずかしくは無かったのだよ、凡愚めが。

「ふふん、アンタも解ってきたじゃない。褒美に表と裏が逆の五円玉をやるわ」
「いらん」

 嬉しそうに雑誌を抱えて階段を上る姉貴。大きくならなくても僕のせいじゃないよ、うん。

 のろのろと起き上がり、扉へと向かう。
 玄関の扉を閉めながら空に目をやると、

 ―――心なしか、
 
 ―――星の数が減っているような気がした―――








・おまけ〜そのに




「随分と楽しそうだったわね、空也」

 ようやく玄関から上がり、部屋へ帰ろうとした矢先、姉様から声をかけられる。
 微笑んでいる、そう微笑んでいるはずなのに空気が冷たい。

「……いや、楽しいも何も姉貴に蹴られていただけですが」
「ふふ、育ての姉二人と腕を組んで買い物してきたんでしょう? 楽しかったわよねぇ」

 はうっ! 見られてた、見られてたよ!

「楽しいからと言って、頼まれ事をないがしろにするなんていけないことよね」

 あ、あかん、めちゃめちゃ怒っとる。な、なんか貢物、貢物。
 袋の中身を思い出しながら、なにか姉様の機嫌を取れるものを考える。
 アガー!! ナンニモナイヨウ、コマッタヨウ。
 ……と、とりあえず、謝っておこう。

「ごめんなさい」
「あらあら、なんで謝っているのかしら空也は。なにか悪い事でもしたのかしら?」

 ふふふ、と笑いながら更に温度を下げていく姉様。
 つーかなんで怒ってんの? この姉様は?
 ヘッドロックされればいいのか? メ○ル○アごっこか? 腕組みか? 貢物か? 折檻か?

「……はっ!! もしやバストアップか?」
「……何を言っているのかしら?」

 どうやら考えを口にしてしまったようだが、突拍子も無さ過ぎて理解できなかったらしい。
 むぅ、バストアップも違うのか……。

TELLLLL TELLLLL

 はっ! 電話だ、とりあえず助かった!
 着信を見ると、さっきのコンビニからだ。はて、なにか忘れてきたかな?

「も、もしもし」

 とりあえず電話に出てみる。姉様は相変わらず俺の事を見つめている。……ごめんなさい、嘘です、睨んでるんです。

「あ、はい、そうですか! わかりました、ありがとうございます! はい……はい。なるべく早く行きます。本当にありがとうございます」

 電話を終えた俺に向かい、またお説教を始めそうな姉様の前に手を出し、それを遮る。
 余計に神経逆なでしそうだけど、これは早めに言っておかないと。

「姉様、朗報です」
「あら、なにかしら? 私の話より大事な事なのよね」

 言外に「くだらない話だったら御仕置き」と言いながら、一応話は聞いてくれるらしい。

「はい。さっきの電話は、コンビニからだったんですが。前に頼んでおいた商品が届いたと言う連絡でした」
「へぇ、良かったわね。…で、それのどこが私にとって朗報なのかしら?」
「実は頼んでいた商品と言うのはですね、ペ○ギ○ズラ○チの1と2なんです」

 ここまで聞いて姉様の表情が変わる。
 前に食玩のおまけのペンギンを特別発注していた姉様だが、食玩自体に詳しい訳ではないらしく、その他の商品に関しては知らなかったらしい。
 そんな訳で、当然ペ○ギ○ズラ○チの1と2なんかは知らなかった。いるかさんも知らなかったし。加えて、もうあんまり置いてある所ないし。
 更に加えて、コンビニで買い物してる姉様って想像できないし。
 何とかならんかと考えて、良く行くコンビニで仲良くなった店員のお姉さんに頼み込んでみた所、「何とかしてみるわ」と言ってもらえた。その結果がさっきの電話だったのだ。

「おまけが、ペンギン、なのね?」

 確認するようにゆっくりと聞いてくる姉様に、力強く頷き返す。
 さっきまでの冷たい空気はどこにも無い。つーか暑い、姉様熱気出しすぎ。

「ついてきなさい、空也」
「はい」

 って、思わず返事したけど、今から行くんですか!?

「ほら、ぐずぐずしない」
「ね、姉様、歩くんですか?」

 表に出ると、すたすたと歩き始める姉様。車は使わないんだろうか。

「今、キー持ってないのよ。何? 犬神姉妹とは一緒に歩くのに、私とはイヤなの」

 あぁ、なるほどヤキモチですか。
 気づいたついでに手を繋ぎたいけれど、そんな雰囲気ではない。
 コンビニまっしぐらな今のお姉様には、声すらかけられない。なんて気迫だよ、この人。

「姉様、歩くの早いですってば」
「…………」

 うわーん、さらっと無視されたよう。



 結局、行きも帰りも姉様は早歩きでした。しかも、帰りはダンボール二つ抱えていたので、危うく置いていかれそうでした。
 そんな訳で、空を眺めている暇なんてありはしませんでした。
 でも、姉様の嬉しそうな顔が見れたので良かったです。




 ―――すまんな、夜の空よ。





―――視界の隅で、星が流れたような、そんな気がした―――







  <完>



  あとがき
 『夜空を見上げて』のおまけです。
 本当なら、『夜空を見上げて』にくっつけるべきなんでしょうが、長くなりすぎました。
 要芽姉様編がいらなかったですね。と解ってはいるものの、要芽姉様への愛に負けました。
 「姉、ちゃんとしようよっ!」ものはまだ書くと思います。
 つーか、空也×要芽でシリアスを書こうと思っています。


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