視界が暗闇で覆われ、次に目を開いた時、俺は過去にいた。いたのだが、戻りすぎた。
学ランに包まれた筋肉のない貧弱なボディ。霊力のまったく感じられない貧相なボディ。
そして、そんな貧弱な坊やな俺の視界に映る、電信柱にポスターを貼っているボディコン服のねーちゃん。
どうやら美神さんと出会う前まで戻ってしまったようだ。どうするべきだろうか?
なるべく俺の知っている歴史通りに進めるのなら、ここは飛び掛るのが正解だけど……。
美神さん(のボディー)と離れるのは惜しい、それは惜しいさ。
だけど時給がなぁ。それにルシオラを助けたら、それこそ……だしなぁ。
それに、俺が過去に跳んだ時点で、歴史は変わってるわけだし。
なによりも、ここはどうやら過去というより別の時間軸の世界、いわゆる並行世界ってやつみたいだし。
てことは、歴史の流れはあんまり気にする必要も無いわけってことか。
そう考えをまとめると、ビルに戻ろうとしている美神さんの後ろを通り過ぎる。
「ちょっと! そこのバンダナで学ランで貧弱な坊やの見本みたいな、そこのあんた!」
「ひゃっ、ひゃいっ」
美神さんを意識しないようにして歩いていたところに突然声をかけられ、裏返った変な声で返事を返してしまう。
別に変なことしてないよな、俺。怪しくないよな、俺。
「歴史通りに進めるんなら、『一生タダ働きでついていきます、おねーさま―――ッ!!』って、私に飛びついてくるんでしょっ!!」
「……え?」
「『……え?』じゃないでしょ、ほら、やり直しなさいよ」
「い、一生タダばた、ってそうじゃなくって!!」
混乱している俺に、思ってもいない言葉が投げかけられる。
歴史通りにって、え!? もしかして、もしかする?
でも、あれ? タダ働きなんて言ったっけか俺?
再び混乱している俺を見ると、イタズラ…いや、謀<はかりごと>の成功した謀略家のように、にやりと笑う美神さん。
「気がついたみたいね、横島君」
「……もしかして、あの美神さんですか?」
「どの美神さんのことかはわからないけど、ルシオラとあんたの関係を知ってる美神さんよ」
「……なんで?」
うめく様に疑問を口にする俺に、淀みなく答える美神さんだったが、この質問で反応が変わった。
胸の下で腕を組むと、じっと俺を見つめてくる。
そう言うと、俺を見つめたまま、ゆっくりと近づいて来る。
俺まで後二、三歩のところで止まり、背を反らし腰に両手を当てると、大きな声で一言。