逆行者 第二話

written by まちす




 じっとりと嫌な汗をかきながら、美神さんを見る。
 そんな俺の反応が気に入らなかったのか、元々自分でも恥ずかしいと思っていたのかは分からないが、「ちっ」と舌打ちすると、再び腕組みをして話し始める。

「あんたの協力者と監視役として私も来たのよ。時間移動できるのも私だけだったしね」

 ここまで話すと、俺と自分の体をまじまじと見て、フゥと溜息を漏らす。

「どうもお互いに昔の体に戻ったみたいね」

 やっぱり美神さんもそうか。てことはやっぱり、これは。

「過去に来た、と言うよりは並行世界に飛ばされた、ってことっすかね」
「みたいね。並行世界にしては、なんだか変なんだけどね」

 お互いに顔を見合わせ、大きな溜息。鍛え直しだもんなぁ、体も霊力も。
 特に俺はしんどいよなぁ。霊能力を一からやり直しってのは……。
 まあ美神さんが事情を知ってて、協力してくれるのは正直ありがたい。
 けど監視ってどういうことだ?

「協力してくれるのはありがたいんですけど、監視ってどういうことっすか?」
「監視は監視よ。あんたが変なことしないように、ってね」

 ストレートな俺の問い掛けに、同じくストレートな返事を返してくれる美神さん。
 って、さっぱり疑問が解消されてないではないか。

「変なことって、するわけないじゃないですか! それに誰に頼まれたんですか?」
「質問は一度に一つよ、横島君。落ち着いてちょうだい」

 いきり立つ俺を、憎らしいくらいに冷静に宥める美神さん。
 まあ、慌ててもしょうがない、落ち着け、俺。深呼吸、深呼吸。
 深呼吸をして、俺が落ち着いたのを確認すると、彼女は一回大きく頷いて口を開く。

「あのね、歴史の流れを変えるってのは、十分に変なことよ。それにリスクが大きすぎるわよ」

 渋い表情の前で、右手の人差し指を振りながら話す美神さん。
 やっぱり、歴史の流れを変えようとしたのはまずかったか。
 だけど、俺だってそれは考えなかったわけじゃない。

「でも、これからの歴史を知ってる俺たちがいる時点で、歴史って変わってません? それにここって純粋な過去じゃないみたいですし、並行世界にしてもなんだか変ですし」
「んー」

 俺の考えていた事を聞くと、美神さんは腕組みをして考え込み始める。
 彼女は目を瞑り、時折片手で顔を覆うと、なにやら呟き溜息を漏らす。かと思うと、また腕組みをして考えに没頭する。
 にしても、この腕組みポーズというのは、なかなかどうして、こう、胸がいい感じで、ねぇ?

「……はぁ、何考えてんのかしらね?」

 考えがまとまったのか、俺には理解できない台詞を残すと、そのまま踵を返し、俺に背を向けてビルへと歩いていく。
 その彼女の背中をぼんやりと見ながら、付いていってもいいものか立ち去るべきか考える。
 気が付くと、ビル入り口のドアを開けたまま、美神さんが俺を見ている。
 俺が気が付いたのが分かったのだろう。

「とりあえず入んなさい。落ち着いて話しましょ」

 そう告げると、俺の答えを待つことなく建物の中へと姿を消す。
 とりあえず、話はしよう。まだ聞きたいこともあるし。


 ……にしても、あの胸は良かったなぁ。さすが美神さんだなぁ……


  コメント
 普通の作品なら、ここまで一話分の構成になるんですよね。
 ただ、前編後編だと思えばいいのか?
 でも特に二話で一話分とかは考えてないっす。
 コンセプトは、『書き手も読み手も肩の力を抜いて』ですので、適当にいきます。
 ……駄目?


BACKINDEXNEXT
SS TOP