「ちょっと待てお前らぁ!! 異議あり!! 異議ありだ!!」
「なんです? 横島さん、もう判決は出てしまいました。減刑はありえませんよ。厳刑はありえますけどね」
冷静に横島をたしなめるピート。
そんな彼を無視し、横島は言葉を続ける。
「でもまあ、気が付かなかった方が幸せだったかもしれませんよ? しかし気付いてしまったことですし、真実をお話ししましょうか…」
ピートの問い掛けに、無言でうなずく横島。
今日こそはモテモテピートに鉄槌を下す、という男たちの誘いに漢を感じ、この裁判に参加する事を決意したのだった。それも一番偉い役で、という提示を受けて。
「それが間違いです。今日のこの集まりは、最初から貴方が被告人だったんですよ」
「なっ!?」
「驚かれたようですね。でもこれが真実なんですよ」
「…………」
静かに言葉を続けるピート。
横島は驚きのあまり、声も出ていない。呼吸すらままならないようだ。
「大勢の男子生徒に呼び出され囲まれたら、その時点で文珠を使ってでも逃げるでしょう? 貴方は」
「当たり前だ!!」
「ですから一芝居打たせてもらった、というわけです」
「今日証言していただいた人達も、本当はすぐにでも貴方を問い詰めたかった。しかしあまりのコトに、自分の眼と脳を信用できなかった……彼らを責めることはできません……」
ピートは一息入れると言葉を続ける。
何人かの証人と、傍聴人の一部がうなずく。
ピートは彼らにうなずき返すと、再び話し出す。
『横島に彼女が出来たみたいなんだけど、どんな道具使ったんだ?』
『横島が凄い美人と、アァンなことをしていたんだけど、オカルトがらみの媚薬ってやっぱ凄いの?』
『オカルトアイテムを脅迫に使うのって、犯罪だろ?』
「俺に女が出来るのが、そんなにおかしいかーーー!!!」
「おかしい」×全員
「俺は犯罪を犯さんと、彼女も作れんのかーーー!!!」
「当然だ」×全員
「オロロ〜〜ン」
「私はこの様な横島さんの情報を待っていました。横島さんに近づく女性の影を探していたからです」
「ちょっと待て……なんだそれは? まるでピートは俺の浮気調査をしてるみたいじゃねーか」
「ええ、そうです。私は貴方の浮気調査をしていたんですよ」
ピートの○モ疑惑が浮上。美形には多いらしい。
その場に走った動揺をまったく意に介さず、横島の言葉を肯定するピート。
「しかし、これでこの仕事も終わりです。クライアントと約束した期日には間に合いました。これでもう、色々なものを目撃されずにすむ!!」
「ク、クライアントォ? お前が主犯じゃないのか!?」
「えぇ。私は『毎日の食事の提供』という報酬と引き換えに、『横島忠夫の女性関係を探る』という仕事を引き受けたのです」
主犯だと思っていた人物に黒幕の存在を告げられ、混乱する横島。
そんな彼を宥めるように語りかけるピート。
「ある日彼女は、私の住む教会へとやってきました。彼女とは知り合いだったので、その事は別に珍しくありません。しかしその日の彼女は、いつもとは違っていました。笑顔ではなく、思いつめた顔をしていたのです」
そこまで話すと横島の様子を伺い、話を再開する。「彼女は先生――神父をしていらっしゃいます――と私に悩みを打ち明けてくれました。なんでも、それまで彼女の全てを懸けて愛していた男性に裏切られたというのです。幸いにして先生と私は、彼女の言う男性とも親しくしていました。ですから彼女の話をすぐには信じられず、その日はどうにか彼女をなだめて帰しました」
ここまで聞いて、横島の表情が変わる。
「しかし彼女は次の日も、その次の日も、ずっと教会を訪れました……手料理を持って……。
彼女曰く、
『もう何日も、私の料理を食べてはくれない』
『いつも汚い部屋が、最近綺麗過ぎるくらい綺麗』
『キッチンに見た事のないお弁当箱が』
『同じバイト先に、最近ご飯をたかりに来ない』
その時の私には、彼女の言葉を否定する事が出来ませんでした」
横島の顔に、嫌な汗が流れる。それも大量に。ハンカチはもう役に立たない……。
「彼女は私に仕事を依頼してきました。そう、先ほど話した件です。本当は断りたかった、しかしもう断れなかった。そうです、彼女の差し入れです。まさか、バイト先の上司の冷蔵庫から食材を調達していたとは……。それだけではありません。先生と私は、色々なものを見られていました」
「アハ、アハハ」と、やばげな笑みを浮かべる横島に、恐怖に満ちた顔で話しかけるピート。「横島さん。私たちは気付くのが遅すぎました、彼女の正体に。彼女は、ただ家事の上手なだけの女の子ではありませんでした。彼女は、彼女は……聞きなさい! 横島さん!!」
なにやら別世界の住人となっていた横島にビンタをかますピート。
「市原式?」「諜報術ぅ?」思いっきり疑いの声を上げる人々。
「あ、あれか……? あれのことか!?」思い当たる節があるのか、聞きなおす横島。
「そう、あれです。E・市原を頂点とする、伝説のスパイ技術のことです。修得すると、家人に気づかれずに彼らの秘密を見る事が出来ます」
「……見られちゃったのか?」
「えぇ……こっそりと物陰から……」
その場に走った動揺を利用し、逃げ出すべく横島は走り出そうとした。
が、しかし。
動き出した瞬間、ロープが体中に絡まる。
オカルトアイテムであるそれは、横島を逃がしはしない。
「ナイスタイミングです。……タイガーさん」
「なにっ!? タイガーだって!! バカな、あいつは……あいつは…」
「横島さん、すいませんですジャー」
「裏切ったな、裏切ったんだな、タイガー! 親父みたいに……」
刑執行中で、この場にいないはずのタイガー。
彼の登場と裏切りに、怒りに震える横島。
「横島さん言ったでしょう。最初から貴方が被告人だったと…」
「すいませんノー、横島さん」
「のっ……のっ……」
「第一タイガーには彼女がいるんですよ? 僕を告発する必要は無いんです」
「ほんとにすまんですノー。わっしだって、わっしだってこんなことしたくは無かったんです……でも、マリさんが……、マリさんが……」
「横島さん、彼らもまた、見られていたんですよ……」
「のっぴょっぴょ〜ん」
『横島さん、私、貴方を責める気持ちなんてまったくありません。
ただ、また私の手料理を食べて欲しいだけなんです。
お師匠様が言っていた、「女房と畳は新しいほうがいい」なんて嘘ですよね?
私、死んだ状態から生き返ったし、新しいですよね?
でもお師匠様はこうも言っていました、「最近は亭主とキッチンは新しいほうがいい」って。
キッチンは新しいほうがいいかなー。なんて思うんですけど、
亭主まで、横島さんまで新しくなんて出来ません。
でも一回死んで、生き返れば』
涙を流し、テレコを止めるピート。
その涙は誰のためか……。
「横島さん。もう、異議はありませんね?」
「お慈悲を、お慈悲を!」
「ダメですよ。貴方も言っていましたが、走り出したら止められないんですよ……」
「さぁ! 待ちに待った判決です!!
とりあえず最初は
「とりあえず25メートルを10本。各コースで。あ、泳ぎの種類はご自由に」
「待ておい! そんな事はどうでもいい!! なんか魔神混ざってるって! 魔神!!」
「横島さん、この期に及んで言い逃れは見苦しいですよ!!」
「横島さん、大人しく罪を償って欲しいですケエ」
さらっととんでもない事を告げるピート。
その傍らで、申し訳なさそうにデジカメを見せるタイガー。
「……任務完了、これより帰還する。っと」
「まだだ! まだ終わらんよ!!」
晴れ晴れとした顔で帰宅しようとするピート。
そんな彼を取り囲む男子生徒たち。
「な、なんです!? もう裁判は終わったでしょう?」
「裁判はな。だがまだ罪を償っていない人がいる」「誰だと思う?」「わかるよな? 美形だし」
「まさか僕ですか!? おかしいですよ! みんな!!」
自分は仕事を果たしただけ、そう思っていたピートは状況の変化についていけない。
バンパイア・ミストにより、逃れようとするが、
「くっ! ばかな! バンパイア・ミストが……!?」しかし霧状になることができない。
「ピートさん、すいませんのぅ、結界を張らしてもらいましたケエ」
「タイガー! まさか!? まさか!?」
タイガー再び裏切る。
驚いているピートに男子生徒が次々と話しかける。
「最初に出した連名状。あれは本物なのだよ」
「横島ほどではないにせよ、モテモテ(死語)なのは事実」
「しかも隠そうともせず、我々の前で堂々と」
「エミさんからだけ? 鎧をきた少女は?」
「タイガー? あぁ、彼か。そうだな」
「我々にだって、いつかは彼女の一人も出来るだろうて」
「では、とりあえず写真撮影から」
「ふふ、あの人ったら。こんなにたくさんの人と。でもこの映像がみんなの手に渡れば、相当な修羅場になるでしょうね。その隙に私が……ふふふ……ふふふ……」
「毎回毎回の謝辞、ありがとう」さわやか笑顔の男性。光っている歯がとても眩しい。
「だっていっつも助けてくれるから。……えへへー」
「ほら! 横島君! がんばって、後もうちょっと!!」
「全然後ちょっとじゃねー!!」
あとがき
……黒いっすね、うん。
実はなんでこんなオチになったか覚えてなかったり(汗)。
中編その2までは計算道理だったのに…。