「自分はその前の晩、横島氏の家の前に籠が止まり、中から角の生えたミニスカの女子大生が出て来るのを見ました。手にはスーパーのビニール袋を持っていました」

 証人(男子生徒093)の証言が始まる。

 被告人、横島忠夫の罪状はまだ尽きそうにない……。







「逆転裁判(中篇その2)」

                                                    written by まちす







「その袋の中身は、たくさんの食材でした。その女性はまっすぐに彼の家へと入っていきました。私は何か悪い夢を見たのだと思い、呆然としてしまいました。ですが気が付くと私は、彼の家の前にいました」

 そこまで告げると、証人(男子生徒093)は周囲を見渡し、再び口を開く。

「良い匂いがしていました。あぁ、横島め。彼女作りやがってチクショウ。明日冷やかしてやる。とだけ思い、私は帰るつもりでした。しかし次の瞬間、私は聞いてしまったのです。彼らの会話を! 見てしまったのです! 彼らが何をしていたのかを!!」

 もはや横島は何も言わず、辺りからは物音一つ聞こえない。
 周囲の視線が自分に集まっている事を確認すると、証人(男子生徒093)は、また語りだす。


『……横島さんダメです。お鍋吹いてしまいます。……あぁ、それにこんな格好までさせて恥ずかしい』
『大丈夫、もう火止めたし。ふふ似合ってるよ、○○○様』
『ダメです。そんな所に口付けしては……』
『えぇ、ダメなの? じゃ、いいや。もうしちゃお。こんなになってるし。エッチだなぁ、○○○様って』
『いや、恥ずかしいから、言わないで下さい。……んっ、あぁ、入ってくる、入って、きてるぅぅ』

「これが私の覚えている、会話の内容です。女性の名前はなぜだか覚えていません。私は昨日までこの事は夢だと思っていました。しかしその女性の写真を見て、夢ではない事を確信しました」

 彼が証言台から降りると、すぐに次の証人(男子生徒115)が台に上がる。

「俺が見たのは、その日の昼だな。4時間目をサボって、屋上で飯食ってたんだ。そしたらホウキに乗った、なんだっけ、あの格好? …あぁ、魔女の格好した人が裏庭に降りるのを見たんだ」

 大げさに首をすくめるジェスチャーをして、先を続ける。

「なんか変なもの見たなー、と思って裏庭に見に行ったんだ。美人そうだったし、お近づきになれるかなぁ、なんて思ってさ。その女は裏庭の結構目立たない所にいてさ。そこは最近まで結構、隠れてタバコ吸う連中が集まってた場所さ。そこにシートを敷いて、たくさんお弁当並べてたんだよ。んで、声をかけて、上手くいったら俺もなんか食わせてもらおう、と思ったんだ。……横島も一緒だったし……」
「……あれは新メニューの試作品だって。あの時間しか暇が取れないって……」

 ジト目で自分を見る証人(男子生徒115)に対し、虚ろな目で反論する横島。
 そんな横島を見ると、証人(男子生徒115)は唾を吐き、声を大きくして話し出す。

「一緒に飯食ってるだけなら俺だって声かけたさ。けど、俺は見ちまったんだ、聞いちまったんだよ!!」


『ふふ、どうです、横島さん? これ本当はディナーで出そうと思ってるんですけど。……カップル限定で……』
『あぁ、道理で。ってことは結果がどうなるかも試してみないとダメですね』
『ん、もう。いきなりなんてダメですよぅ。…あん、イヤです、こんな格好』
『だってシート敷いてるとはいえ、背中痛いでしょ。だったらこの格好じゃないと』
『あ、あぁ! でも、こんな格好、恥ずか、しい、ですぅ』
『だって○○さんの料理のせいで、俺、獣ですから。責任とって貰わないと。ほら、あんまり大きな声出してると、誰かに見られちゃいますよ』
『んんっ、む、無理で、す。激し、す、すぎて声、出ちゃい、ますぅ。も、もっとゆっ、くりぃ』


「俺が覚えているのはここまでだ。気が付いたら二人はいなかった。俺のそばにメモが残っていて『覗きはいけませんよ。でも三回も出してくれて、私ちょっと嬉しいです。名前は魔法で記憶から消させてもらいました』ってな」 「ほ、ほんとに見られてたのかよ……」

 自嘲気味に話す証人(男子生徒115)、呆然と呟く横島。
 傍聴人の皆さんは、なぜか前屈みだ。

「僕が見たのは朝! 犬の散歩をしてる時で、まだだいぶ早い時間だったね。……五時半位かな。公園に入ったところで横島君を見たんだ。赤と銀の髪をした女の子と一緒だったよね。最初は妹さんかと思ったんだけど、先生って呼ばれてたんだよね」
「……お、お前は……」

 続けて、なにやら元気一杯で横島に向かい話しかける証人(男子生徒164)。
 彼の顔を見た途端、嫌な汗を流しだす横島。

「なんだか横島君の方がヘトヘトだったよね、見てて可哀想なくらい。そしたら横島君たち、


『休憩、休憩だ!! ○○!』
『ご休憩でござるか! 先生!!』
『こら、どこ行くつもりだ、○○!!』
『ご休憩でござろう? だったら人目につかないところに行くでござるよ』


 って言って、茂みに消えていったんだ。それで僕、ゆっくり公園を二週して横島君たちを見た所に戻ったら、もっと疲れた横島君を見たんだ。休憩してたはずなのにおかしいよね? 女の子の方は、もう元気一杯だったよ。」

 ふと、不思議そうな顔になる証人(男子生徒164)。

「……でもなんで首輪してたの、あの子? まぁ、いっか。僕、横島君に朝の挨拶しようと思ったのに、『忘れろ、忘れてくれー!』って言って、ちっちゃいボール投げつけるし……。なんでか女の子の名前だけ忘れてるし。痛かったんだからね」
「なんで? なんで忘れてないんや? 失敗か? 疲れてたからか?」

 どこまでも無邪気な少年、いや証人(男子生徒164)。
 横島はなにやら考え込んでいる。
 膨張人、いや傍聴人たちには、そろそろトイレ休憩が必要か?

 ここまで聞いて、一斉に騒ぎ出す傍聴人達。

「俺、横島の家に夜遅く、帽子にコートの奴が入って行くの見た事あるぞ!」
「そいつならよく見るぜ」
「あいつは男じゃー!! しかも勝手にカップラーメン食いやがって。それも高い方から順番に……」
「……なんて羨ましい……。雪之丞さんめ……。それもちょくちょく……」
 なにやら呟くピート。


「スーツ姿のきつそうなお姉さんが、ちびっこい横島連れてるの見た事あるけど?」
「あ、銭湯の女湯から出てきた二人だな? えっと……チビタダとか呼んでたな」
「その子はお姉さんのことを……ええっと、○○Qお姉ちゃんって言ってたな。なんつってたっけかなぁ」
「弟じゃないの? ……え、横島って一人っ子? ……でも横島の家に入って行ったぞ……」
「紛れもなく、横島さん本人ですよ!!」
 あっさりばらすピート。


「あれ? 俺の見たスーツの人って、赤ちゃん連れてたぞ?」
「俺が見た時は、エプロンしてたぞ、横島の家で」
「あぁ、僕も見たよ。朝だったな。赤ちゃんを抱いていたね。赤ちゃんにも手を振らせてたな」
「お兄ちゃんだっけ? お父さんだっけ? いってらっしゃーい。ってな」
「……横島さん、貴方って人は……貴方って人は……」
 ちょっとびびるピート


 しばらく騒いだ後、怖いくらい静かになり、一斉に横島へと視線を向ける傍聴人たち。
 彼らと横島を視界に収め、ピートが喋りだす。

「皆さん、もうお分かりいただけたでしょう? 本当に裁かれるべき人を。許すべからざる極悪人が誰かを。恐らく、今証言していただいたことなど、氷山の一角にすぎません。判決は……口にするまでも無いようですね」

 同じリズムで足を踏み鳴らし、殺気のこもった目で横島を見、口々に「こ〜ろ〜せ、こ〜ろ〜せ」と呟いている。
 普通の人が居合わせたら、トラウマになりな光景がそこにはあった。
 慌てた顔で、あぅあぅ言っている横島だったが、何かに気づいたのか目に意識が戻る。
 と、次の瞬間大きな声で、

「ちょっと待てお前らぁ!! 異議あり!! 異議ありだ!!」
「なんです? 横島さん、もう判決は出てしまいました。減刑はありえませんよ。厳刑はありえますけどね」

 冷静に横島をたしなめるピート。
 そんな彼を無視し、横島は言葉を続ける。



「おかしい! どう考えてもおかしい!!
 お前ら、手際が良すぎるぞ!!」








  <まだまだ続く>



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