「どうしたんです? 横島さん。こんな所に呼び出して? また美神さんに殺されそうなんですか?」
「違う。美神さんは関係ない」
「今回はわっしも呼び出した側ですケエ」
「な、何ですか!? 二人とも怖い顔して」
「わかんないっていうのか? これだから美形は!!」
「今日は、今日こそはピートさんに思い知ってもらいますケンノ〜」
「我々は、ピエトロ=ド=ブラドー、通称ピート氏を告発する!!」
「全てのもてない男達の連名状ですジャ〜」
二人の叫びの後に、わらわらと現れる男子生徒たち。彼らはそのまま、ピートたち三人を囲むように立つ。
もはやピートに逃げ道は無い。
「これより開廷! 裁判長、俺!」
「検察はわっしですジャ〜」
「傍聴人は俺達だ〜」
「弁護士を、せめて弁護士を!! ってゆーかどうしたんですか皆。そしてなんなんですか、このノリは!!」
「却下(一秒)。なお本裁判は、一切記録に残らないものとする、以上」
「あぁ、もう何がなにやら……」
「被告人ピート、君は毎朝毎朝毎朝、下駄箱の中に大量の郵便物が押し込められている。間違いないな?」
「ピートさん、あなたは休み時間ごとに、お、お、おなごに囲まれている。間違いないですのぅ?」
「さらに昼休みには、食べなくても体は大丈夫なのに、女子生徒からお弁当を受け取っている。それも複数だ。……唐巣神父が泣いてるぞ」
「放課後には、ほぼ毎日おなごを泣かしとりますのう。これも複数ですジャ〜」
「「被告人、何か言うことはあるかな?(ありますかいノー?)」」
「とりあえず、裁判長は罪状読み上げしないんじゃ……」
「自分の口で言わずにおれるか〜〜!!」
「判決!! 死刑……は無理だから、社会的抹殺」
「とりあえず、あ〜んな写真や、こ〜んな写真撮影ですケエ」
「そ、それは。名前も知らない子達からもらったものですし。だいたい、食べてるのは二人じゃないですか!!」
「ピート、お前は今、女の子達の心を、乙女心をも冒涜した……罪状追加、刑罰レベルアップ」
「ピートさん、わっしは知ってるんですケン。貴方がエミさんの手作り弁当をもらっていることを。わっしでさえ作ってもらったことがないのに!! エミさんもノリノリで、恋のおまじないまでかけとった弁当を!」
「ふむ、罪状プラスいち、っと」
「待ってください!! 確かにエミさんからそれらしきものを受け取りました! だけど、だけど!! ……みなさん知っていますか? ……おまじないって……呪<のろい>って書くんですよ……」
「しかし、名前を知ってるおなごからもらったのは確かなんジャ〜」
「そ、それなら! 異議あり! 異議あり!!」
「わっ、わっしですかいノー」
「そうタイガー、貴方です。貴方は今日、僕からお弁当のお裾分けをもらっていない」
にやりと笑い、タイガーに話しかけるピート。
突然話を振られたタイガーの顔は真っ青だ。
「きょ、今日は自分で作ってきたんですジャー」
「へぇ、そうですか。にしては、いつものお弁当箱と違いますね。随分と可愛いらしいお弁当箱でしたね」
「あ、あれは……。そ、そう、エミさんからもらったやつですケン」
「僕が受け取らされたものとは、ずいぶん趣味が違うようですが?」
「しかも中身は……ピンクのハートマーク、ですか。どういったことでしょうね? タイガー君」
「あれは、あれは……」
「あぁ、お弁当箱返すのであれば、僕がお返ししましょうか?」
ピートの容赦のない追求に、さらに青い顔になり震えだすタイガー。
そんな彼を、余裕の顔つきで見るピート。
勝敗は決した……。
「そういやお前、彼女いたんだったな……。タイガー、お前は色々と、そして多くの同志を裏切りすぎた……。もう俺の力では傍聴人を止められない。そう、走り出したら止められないんだよ。すまん」
涙を拭い(出てない)、辛そうに告げる横島。
「取り合えず、判決! 被告人、ピエトロ=ド=ブラドー。女泣かせ及びモテモテ(死語)。そしてちょっといい気になってます、その他諸々の罪、筆舌に尽くしがたい。よって、写真撮影および男子柔道部・相撲部への入部を言い渡す」
「な、なんですかー! それは!」
「発言を許可した覚えはない」
ピートに続けて、判決を言い渡そうとした横島だったが、被告人であるところのタイガーがいない。
辺りを見渡すと、傍聴人のうちの数名が見当たらない。
いやな汗を流し呟く横島に、何人かの傍聴人がサムズアップを返す。
どうやらタイガーへの刑は、すでに執行中らしい。
不自然な咳払いをして、横島は木槌を鳴らし、閉廷を宣言しようとする。
「待ってください! 裁かれるべき人はまだいます!!」
「ふっ。何を言い出すかと思えばピート君、往生際が悪い。今更罪を否定する気かい? 無駄だよ」
「いえ、その罪は認めましょう。しかしその人物に比べれば、私の罪なんて小さなものです」
「裁判長、聞くだけ聞きましょう。彼がアレだけ言うのであれば、よほどの人物です」「そうです」「聞くだけでも」
「いや、だけどなぁ」
ピートの言葉に、傍聴人の何人かが応える。
言葉少なに、そして歯切れ悪く彼らに対応する横島。
そんな彼の言葉を待たずして、ピートが喋りだす。
「その人は、タイガー寅吉氏と同様、私からお弁当のお裾分けを貰っていました。そう、『貰っていた』です。その人物は、近年稀に見る極貧です。私の先生と互角です。なかなかなれませんよ、それは。そんな彼がお裾分けに頼らず、どうやって昼食を摂っているのでしょう?」
ピートの言葉を遮る者は無く、皆真剣に聞き入っている。