「横島さん。いえ、横島忠夫。私、ピエトロ=ド=ブラドーは、貴方を告発します!!」

 突然告げられた自分への告発に、衝撃を隠せない横島。

 そんな彼をまっすぐ見つめるピート。

 人を殺せそうな視線を横島に送る傍聴人。

 タイガーの姿は……未だ見えない……。







「逆転裁判(中篇その1)」

                                                   written by まちす







「な、何を言い出すかと思えば……。ピート君、そして傍聴人の方々はよく知っているはずだが、この私のもてないっぷりを」
「横島さん、今の貴方に余計な事を言う発言権はありません。弁護士を呼ぶ権利もありません。……ですが自己弁護のための発言だけは認めましょう」

 うろたえる横島とは対照的に、どこまでも落ち着いているピート。
 殺気立つ大勢の傍聴人。
 一部の傍聴人は何かに気が付いたのか、はっとした表情をしている。

「ではお聞きします。貴方は今日のお昼、私からお弁当のお裾分けを貰っていない。確かですね?」
「…………」

 黙ってしまった横島を一瞥し、言葉を続けるピート。

「沈黙は肯定と受け取ります。では次です。今日の昼食はサンドイッチのようでしたが、どこで手に入れました?」
「そ、それは、自分で作ったに決まってるじゃないですか!」
「ふぅ、横島さん。貴方が作ったにしては、ずいぶんと手が込んだモノのように見えましたが? それと、同じように机に上がっていたおかずとサラダ、そしてポットに入れていたコーヒー。この存在をどうしましょう?」

 言葉に詰まり、しきりに汗を拭いだす横島。

「購買で……」
「買った。というのは認められませんよ。購買で売っているモノよりも数段、いえ、かなり上質の食材が使われていたようです。これは複数の目撃者が証言しています」

 自己弁護を遮られ、証人の存在まで告げられる。
 傍聴人の内の何人かは、ピートの傍に控えている。おそらく彼らは証人となるのであろう。

「そしてコーヒーです。香りしか分かりませんでしたが、かなりの品質の豆を使用していますね。貴方の薄給では買えないクラスのモノです。…飲ませてくれませんでしたし……」
「い、いやそんなはずはない!! あれは安物のインスタントだって、美神さんが、言ってた……って!!」

 己の失言に気が付いて青くなる横島。
 満足げに大きく頷くピート。
 会場(?)の殺気は増すばかりだ。
 タイガーの姿は、やはり未だ見えない。

「……なるほど。アレは美神さんのお手製でしたか。いつ受け取ったのか? という疑問が残りますが、些細な事です。貴方は今日、美神令子さんの運転するコブラで登校してきました。……この事から導き出される答え、それは今朝、あるいは昨夜から美神令子除霊事務所に貴方は居た。間違いありませんね?」
「…………」

 ピートの問いかけに沈黙で応える横島。
 先ほどの失言を忘れてはいないらしい。

「沈黙することは肯定したことと一緒ですよ。……まぁいいです。昨夜から事務所にいた。これは貴方が、事務所の方々と今朝、昨夜と食事を共にしたことを意味します」
「い、異議あり。今朝は確かに、(起こしてくれた)タマモの作ってくれたきつねうどんでした。一言言わせていただくと、おあげが絶品でした」
「へぇ、あのタマモさんが手料理を。愛されていますね横島さん」

 横島の自己弁護を逆手に取り、傍聴人たちを煽るピート。引きつった笑顔が素敵です。

「では昨夜はどなたの手料理を? あぁ、これ以上の沈黙は、決して有利には動きませんよ。理解しましたか?」
「……はい。昨夜は冥子ちゃんと一緒のお仕事でした。仕事の後、六道さんのお宅でなにやら豪華なお食事をいただきました」
「それだけですか? 冥子さんの手料理はいただきませんでしたか? 偽証は死罪ですよ」

 追及の手を緩めるどころか、脅迫までし始めるピート。
 横島は大人しく答えるしかない。

「はい。いただきました。……素晴らしい素材でした……素材は……。気が付いたら、(美神さんと)事務所のベッドで寝てました」
「そ、そうですか。ご苦労様でした」

 はらはらと涙を流し供述する横島に対し、思わず労いの言葉をかけてしまうピート。
 横島が一部分黙っていた事にも気が付かない。

「オッホン! では次です。昨日の昼食ですが、これも目撃者がいます。証人の方、どうぞ」

 わざとらしい咳払いのピートに続いて、証人(男子生徒032)が証言台へと登る。

「はい。では、証言させていただきます。昨日の昼食時、彼は机妖怪の愛子さんからお弁当を貰っていました」 「異議あり! 異議あり!! あれは調理実習で作ったって言ってたぞ!!」

 男子生徒の証言に、食って掛かる横島。お弁当という言葉が、調理実習に変わっただけで、罪の重さは変わらない。
 その事にすら気づかない横島。相当テンパッているのだろう。
 そんな彼に向かい、首をすくめながらピートが告げる。

「横島さん。僕も女の子から貰いましたよ、実習作品。でもそれはマドレーヌでしたけどね」
「なんだ、あれもか。道理で温かいはずだよ。……美味しかったな」

「あ、それなら俺も貰った」

 興味は無かったが、付き合いで来ていた男子生徒209が不用意に言葉を漏らす。次の瞬間、傍聴人の一部と共に、彼の姿はどこかへと消えた。

「ち、自慢しやがって」「そういやピートも貰ったって……」「やっぱもう、やっちまうか?」「これだから美形は」

 己の自慢話と共に真実を告げたピートだったが、それは横島にサラッと流され、男子生徒209の存在を消し、自分の首を絞めただけだった。
 殺気立ったその場の雰囲気と、彼らの視線から逃れるように、ピートは話を続ける。

「まだ終わりませんよ! 横島さん!! その日の朝です。証人、お願いします」
「これは、私が実際見聞きしたわけではなく、飢えた福の神様に昼食をご馳走した時に聞いた話ですが…」

 次の証人(男子生徒057)の言葉に、横島の顔が引きつる。

「その神様が言われるには、自分が守護している女性が、隣の小僧のところに朝食を作りに行ってしまい、朝食抜きだったとのことです。ちなみに、「隣の小僧」の朝食メニューは、白飯・味噌汁・焼鮭・玉子焼き・おしんこだったそうです。……神様は呪ってやる、と仰って消えられました」
「理想的な朝食ですね。しかも彼女の手作り。一緒に食べたのなら、あーん、とかもした事でしょう。これでお二人が、妙に仲良く登校されていた理由が分かった気がします」

 神様からの伝言を伝え、台から降りる証人(男子生徒057)。
 横島にとってはいらん一言を付け足すピート。
 顔を赤くしているあたり、横島はどうやら本当にやったらしい。

 と、すぐに次の証人(男子生徒093)が台に上がる。

「自分はその前の晩、横島氏の家の前に籠が止まり、中から角の生えたミニスカの女子大生が出て来るのを見ました。手にはスーパーのビニール袋を持っていました」








  <まだ続く>



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