全体重をかけていた扉が開き、支えを失った俺と美神さんは折り重なるようにして倒れこむ。
正直、ものすごく痛い。密着している美神さんの感触を忘れるくらいに痛い。
だがその痛み以上に俺の意識は、突然の乱入者に向けられていた。
「マ、ママッ!?」
美神さんが、俺の上で大きな声を上げる。
そう、俺を極貧生活から救い出した神――この場合は女神か――は、美神玲子の母親にして、オカルトGメンの隊長、美神美智恵さんだった。
「ふーん、あなたってば、こんなにいい所を事務所にするのねー。こことは別にマンションも借りたっていうじゃない。
あんまり無駄遣いしちゃだめよ」
部屋の中をぐるりと見回しながら、のんびりと話す美智恵さん。
そのままゆっくりと部屋の中を歩きながら、美神さんに話しかけている。
一方、話しかけられている美神さんは、曖昧に頷いたり返事をしたりしている。
返答できるだけでもすごいと、素直にそう思う。
だって俺ってば、今現在も目の前の状況が把握できないでいる。
混乱しすぎて、何をしたらいいのかさっぱりわからない。
とりあえず落ち着こう。美智恵さんが俺に興味を持つ前に落ち着かなければ、なんだかまずい気がする。
まずは目の前の状況を整理。そんで次に疑問な点を心の中で列挙。
よし、この手順で行こう。
――俺を追いかけて時を越えたのは、美神さんだけなんじゃなかったのか?
――なら、目の前にいるこの隊長はいったいなんなんだ?
――監視の目をかいくぐって、時間を飛んだのか?
――でも、美智恵さんて、こんなに穏やかな表情だったっけ?
――てか、美智恵さんって、結構美人だよな?
――ん? 人妻って胸キュン?
――不倫も純愛って言えば許されるような気がしません?
いやいや、待てよ俺。落ち着けよ、俺。
深呼吸、深呼吸……って、美神さんが乗っかったままだから、呼吸もままならねえじゃん!
なんだか疑問が深まっただけのような気もするが、あほな思考をしたせいか、いつものペースを取り戻して落ち着いた気がする。
その幾分落ち着いた頭で、今何をしなければいけないのかを考える。
今一番の疑問なのは、目の前を歩いている美智恵さんが、いつの美智恵さんなのかということ。
俺たちと同じ時間軸の美智恵さんなら、全然問題は無いんだけど。
……ん? 違った時間軸の美智恵さんだと、なんかまずいのか?
まあ、その辺の判断は美神さんに任せよう。独断専行できるほどの度胸もないし。
そんな事を、タイトスカートに包まれた美智恵さんのお尻を見ながら考える。
美知恵さんに関することは、これで解決したことにする。
そうなったら、やらなければならないことは…これだっ!!
「契約書、ゲーーットオッ、アーーンド、ブレーークッ!!」
俺の存在を忘れていそうな美神さんの手から、極貧生活確定書――別名を雇用契約書と言う――を奪い、びりびりに破く。
「あーーッ!! あんた、なんてことしてんのよ!!」
びりびりになった極貧生活確定書を見ながら、美神さんが叫ぶ。
勝った。今度こそ俺は勝った。
「もうっ! 横島のくせに! むかつくわねぇー!!」
「いた、痛いですっ、てか、すげー、ぐ、苦じいっず」
まあ、すかさず体勢を立て直した美神さんに殺されそうだけどな。
「ギブ、ギブ! キャ○ルク○ッチは本当に死ぬって!!」
コメント
キャメルクラッチを漢字で書きたかった。
資料探すのもめんどかったので、カタカナで。
キャラメルクラッチじゃなかったですよね?