逆行者 第九話

written by まちす




 弱々しくタンタンタンと床を叩く俺の両手。
 人間の限界以上まで反らされた上半身。
 きしんだ音を立てている背骨。

 さすが必ず殺す技だけあって、半端じゃないぜキャ○ルク○ッチ。
 上半身と下半身がさよならするのが先か、背骨が折れるのが先か非常に微妙なところです。
 あ、大穴で頭がすっぽ抜けるってのがあるかも。
 ……って、そんなんいややー!
 せめてもの抵抗にと、ぶんぶんと首を振る。

「……令子、その辺にしてあげたら? その子、死んじゃうわよ」
「ママは黙ってて! 私とこいつの問題なんだから!」
「はいはい。でも一言だけ言わせてね」

 美智恵さん、早く。俺の助かりそうな一言を。
 娘さんが罪を犯す前に。俺の命の灯が消えぬうちに。

「ショーツ、見えてるわよ。今日はピンクな……」
「なにいっ!? 美神さんのパンティがピンクだとおうっ!」
「なっ!?」

 難なくキャ○ルク○ッチから抜け出す俺…なんつーか、俺って時々すごいよな。
 勢い良く振り返り、その場にぺたんと女の子座りになっている美神さんを見る。
 ずり上がったボディコン服の下には、確かにピンク色のパンティが。

 まさか、あの美神さんがピンク色の下着を所持していたとは。
 黒とか白、赤にくりぃむれもん色とか持ってるのは確認済みだったけど、まさかピンクとは。

「美神さん。俺は、俺は悲しいっすよ」
「―――は?」
「いつそんな色の下着を買ったんすか!? 俺見たことないっすよ」
「いつだっていいじゃない! いちいちあんたに報告する必要なんて無いでしょっ!」
「だって美神さんの下着見るのなんて俺だけじゃないっすか!」
「うっさい! 見せてるわけじゃなくて、あんたが勝手に見てるだけでしょっ!
 見せると見られるが違うって言ったのはあんたじゃない!」
「あっ! そーいや、俺の恥ずかしいところ見てるんだから、下着姿くらいサービスしてくれても」
「あんたは私がシャワー使ってるとこ見てるじゃない!」

 力比べをするかのように、両手をがっちりと組み合わせる俺と美神さん。
 そのまま唾を飛ばしながら、激しく意見を戦わせる。
 内容は他人には聞かせられないけどさ。あほ丸出しだし。
 と、それまで口を挟むこと無く、俺たちのやりとりを眺めていた美智恵さんが、やんわりと俺たちの間に割って入る。

「ストップ、ストップ。二人とも、論点がずれて……はいないけど、もうやめたら?
 二人の仲が良いのはわかったから」

 そういや、美智恵さんがいたんだったよ、すっかり忘れてた。
 彼女の言葉に、言い争いをやめる俺と美神さん。
 そんな俺たちを見ると、彼女は満足そうにうなずき、言葉を続ける。

「で、令子。この男の子、誰?」
「え? ママ、横島君のこと知らなかったっけ?」
「横島君ていうのね。ええ、知らないわよ」

 視線の先の美知恵さんは、嬉しそうにニコニコと俺達を見ている。
 本当に知らないのか、はたまた嘘をついているのか。判断に困り、美神さんへと視線を戻す。
 と、同じように俺へと視線を向けていた美神さんと視線が合う。なぜか真っ赤な顔になる美神さん。
 気がつくと、お互いの息遣いが聞こえそうなほど近くにお互いの顔がある。
 こ、これか。や、やばい、たぶん俺の顔も赤いぞ、これ。

 視線をはずすタイミングがつかめず、見つめあい続ける俺と美神さん。
 二つの唇の距離は近づいていき、やがて……。


  コメント
 なかなか話が進まない上に、更新送れてごめんなさい。
 つーか、これは逆行ものっていうジャンルに入るんだろうか?
 ま、ジャンルなんて気にしてないですけど。


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