逆行者 第十一話

written by まちす




 身だしなみを整え、洗面所から応接間に戻ると、すでにお茶の用意がされていた。
 俺と美神さんを並んで座るように促しながら、美智恵さん自身は向かい側に座る。
 そうして、興味いっぱい好奇心を隠せません、待ちきれません。といった感じで美智恵さんが口を開く。

「それであなた、名前と年齢、職業は?」
「横島忠夫、17歳。高校二年生です……これって尋問?」
「違うわよ……それで、令子との関係は?」
「結婚を前提とした」
「知り合ったばっかりよ。表のアルバイト募集の張り紙を見たんですって」

 美智恵さんの尋問のような質問に答えていると、美神さんが横から口を挟んでくる……ヒールの先を俺の足にめり込ませながら。
 その答えを聞くやいなや、なぜだか面白そうに口をゆがめる美智恵さん。
 俺と美神さんがカップに口をつけたのを見計らうと、待っていたかのように話を再開する。

「でもその割にはずいぶんと親しいわよね。色々見せっこしてるみたいだし」

 飲みかけのお茶を勢いよく噴き出す俺たちを見ながら、それを予期していたのであろう美智恵さんは、お盆で顔を隠していた。
 彼女はお盆を置くと、テーブルの上を拭きながら、ちらちらとこちらの様子を伺っている。
 頼りの美神さんが真っ赤になって何も話してくれないので、やむを得ず俺が口を開く。

「そ、それは複雑かつ明快な理由があるので追々話すとしまして、美しい貴女のことが知りたいっす」
「美しいだなんて、お上手ね。ふふ、ここは騙されておいてあげるわ」

 複雑で明快ってなんじゃい、と心の中で突っ込みを入れる俺。
 そんな俺を笑顔で見ながら、言外に後でゆっくり聞かせてもらうわね。と告げる美知恵さん。
 そこら辺は、今だんまりを決め込んでる美神さんに何とかしてもらおう。

「でも、いいのかしら、令子の前でそんなこと言ったりして……怒ってるわよ」

 ……ええ、わかってます。さっきからずっとヒールの先がめり込んだままですので。

「そんなことよりも、貴女のことを」涙をこらえながら続ける。
「そう? それじゃあ自己紹介するわね。わたしは、美神美智恵。そこのやきもち焼きの母親よ」
「だ、誰がやきもちなんてっ!」

 そんなこと言うなら、はよヒールどかさんかいっ! めりこんでる、めりこんでるって!
 怒りを露にくってかかる娘を、笑いながら交わす母親。言い争いをしている二人を眺める。口調は喧嘩腰だけれど、そこには暖かな空気が流れている気がした。
 密かに生命の危機を迎えている俺がいなければ、非常にいい光景だ。うん。

「母親なんですか? てっきりお姉さんだと思いましたよ」
「ありがと。よく言われるわ」あっさりと言うと、お茶を口にする。
「はー。美神さんの母親。やっぱりGSなんすか?」
「そうよ。まあ、最近はダンナにくっついて海外にいたから、日本では営業してないけどね」

 よし、いい感じに情報が聞きだせそうだ。珍しく役に立ってない、俺?
 だからそれに免じて、優雅な顔でお茶飲んでる美神さん、足、どかしてください。
 ……俺が何したっちゅーねん。
 心の中でそう毒づいて痛みをごまかしながら、美智恵さんから情報を引き出すべく、俺は話を続ける。

「ダンナさんもGSなんすか?」俺の記憶が確かなら、確か違ったはず。
「いえ、違うわ。あの人はね、大学の教授よ」

 なるほど、この辺は変わりなしか。んじゃ、次だな。って、……次、何聞こう……。
 早く質問しないと、逆に聞かれてしまいそうだ。

「もう質問は終わり? それじゃ私から聞いてもいいかしら?」


  コメント
 美「智」恵さんなのか、美「知」恵さんなのか。ごちゃ混ぜになってました。
 正解は「智」でした。今までも間違えてました。


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