美神さんの後に続き、雑居ビル五階の美神令子除霊事務所へと入る。
なんだか変な感じだ。またこの事務所に来るとはね。
そういや、人工幽霊壱号は今どうしてるんだろう?
やっぱり今回もこのビルは壊れて、あいつの世話になるのだろうか?
ソファに腰を下ろし、そんな事を考える。
しばらくすると、キッチンでお茶の用意をしていた美神さんが戻ってくる。
テーブルにお茶を置くと、向かいのソファに座る。
そして、一口お茶を飲んで満足げに頷き、美神さんは口を開く。
「で? なんか聞きたいことあるんでしょ?」
そう言うと、俺の顔をじっと見つめてくる。
「それじゃ、まず一つ目なんすけど。協力と監視役としてついてくるって、美神さんが言い出したんですか?」
お茶菓子を口にしながら、肯定も否定もしない彼女。
俺もお茶を一口だけ飲み、言葉を続ける。
「誰に頼まれたんです?」
「簡単に言うと、神界と魔界のお偉いさん。それと、みんな」
「みんな?」
「あんたが過去へ行くんじゃないかってのは、薄々気づいてたのよ。文珠を使えば、時を越えられる。過去をやり直せる」
そこまで話すと、ゆっくりと目を閉じる。
普通の人であれば、やり直せるものならいくらでもやり直すだろう。
やっぱり、美神さんにもやり直したい過去が……あるのかな?
「―――その誘惑に抗えるものは少ない。遅かれ早かれあんたは実行するだろうってね」
目を開け、お茶を飲むと、苦笑しながら続ける。
「止めたって聞かないだろうから、やるだけやらせてあげようって、みんなで決めたのよ。それで、あんたが無茶苦茶しないようにってことで私がついていくことにしたの」
美神さんは「帰ったらみんなにお礼言って、謝りなさいよ」なんて言いながら優雅にお茶を楽しんでいる。
なんだ、内緒にしてたつもりだったんだけどな。
迷惑も、心配もかけたくなかったから、一人でやるつもりだったのにな。
結局、みんなに心配させて、美神さんには迷惑かけて。
美神さんまで逆行しなくったって良かったのに。
不覚にもこぼれそうになった涙をこらえて、次の質問をする。
「じゃ、二つ目。どうやって俺と同じ場所、というか時間に来たんです?」
「あんたは気づいてなかったみたいだけど、結構前から監視されてたのよ。事務所ではもちろん、家でも学校でもね」
…げ。てことはアレとかコレとかソレとかも、見られてたん?
収納場所とか、隠し場所とかばればれっすか?
「イヤーーッ!! イヤすぎる!! 何てことしてるんすか!? も、もし俺が逆行してなかったら、単なる覗きじゃないっすか!!」
「お、落ち着きなさいよ。何も四六時中見てたわけじゃないから。霊力が異常に高まってる時だけだから!!」
「なんだ、そうならそうと早く言ってくれれば良かったのに」
……あれ、でも俺の霊力が高まる時ってのは、煩悩が全開ってことで、それって結局は……
軋んだ音がしそうな動きで首を動かし、美神さんを見る。
み、美神さーん、赤い顔してそっぽ向かないでくださいよぅ。
あかん、涙が止まらない。がんばってこぼれないようにしたのに。
……くすん。
コメント
お待たせしました、第三話です。
時の流れとか、世界のあり方について考えていたら結構悩んでしまいました。
設定魔なもんでして、てへへ。(可愛くないよ