逆行者 第六話

written by まちす




「355円でどうっ? 105円も高いわよ」
「安っ! ごっつ安っ!」
「くっ、これでも駄目なの。ごうつくねぇ〜」
「だから何回も言ってるじゃないですか、安すぎるって」

 美神さんの「時給応相談」という言葉で始まった銭闘。
 わかってたけど、ほんと安いな。この人は本当に俺を雇いたいんだろうか?
 250円では働かない、という俺の言葉にそれなりの額の提示が為されたわけだが。

「最初は500円だったやないですか。それでさえ普通のバイトより安いっちゅうのに……」
「なによ、私のところで働けるのよ。500円でも高すぎるくらいよ。ほら350円!!」
「せやからこれ以上下げてどないするっちゅうねん!?」
「だって私ぐらいのもんよ。霊力のないあんたを雇ってやろう、なんていう霊能力者は。
 どうせあんただって霊能力者にならないといけないんだから、師事するんなら私の所にしときなさいよ」

 実は、まったくもって美神さんの言い分は正しい。
 霊能力をまったく持たない今の俺では、他所の除霊事務所や霊能力者は雇ってくれないだろう。
 金を出して単なる荷物持ちを雇うくらいなら、駆け出しのGSを雇った方が都合がいい。
 簡単な除霊もさせられて、荷物持ちだってさせられるし、俺だったらそうする。
 まあ、時給250円で雇える荷物持ちがいるんなら雇うかもしれんけど…って俺のことだけど。

 そして、美神さんの言うとおり、俺はGSにならないといけない。
 あの戦いに参加するには。彼女に逢うためには。そうして、彼女を救うためには。
 あの時よりも力を持ったGSになっていないといけない。
 それは、絶対条件だ。
 そのためには、優秀なGSのところで修行するのが確実な方法であるのは間違いない。
 そして、美神さんが優秀なGSであることも間違いない……色々問題のある人であることも間違いないけどさ。

「ほら、300円! なに、まだ不満なの? ほらほら295円!!」
「―――っていつの間にか300円台切ってる!?」
「どうせ私の事務所で250円で働くしかないんだから、早めにサインしといた方がいいわよ。290円!!」
「あぁっ! また下がった! って今物凄いいやな言葉があったような気がっ!?」

 でも俺にも考えがある。美神さんは日本随一の優秀なGSだが、唯一ではない。
 優秀なGSなら他にもいるのだ。
 ―――そう、美神さんの師匠とかね。

「―――美神さん、俺やっぱりここでは働きません」
「28……へ? じゃっ、じゃあ、どーすんのよ、あんた。GSになるんじゃないの!?」
「別に美神さんの所で働かないとなれないわけじゃないですし。美神さんの他にもGSはいるじゃないですか」
「でも、私くらい優秀なGSがそうそういるわけじゃ……って、まさかあんた」
「美神さんの先生―――唐巣神父の所で修行しようと思います」
「あ、あのね……唐巣先生は確かに優秀なGSだけど、貧乏よっ! 給料なんて出るわけないじゃない」
「それは他所でバイトするなり、唐巣神父のとこの依頼人からきちんと礼金を貰うことにします。
 ……美神さんもそうしてたんでしょう?」

 俺の言葉を聞くと、小さく舌打ちをし右手親指の爪を噛みながら、悔しそうな顔をする美神さん。
 ふっふっふ、この銭闘、俺の勝ちのようやなっ!
 あとは唐巣神父さえうまく騙くら、げふんげふん、熱意を伝えて弟子にしてもらえれば、俺の完全勝利や!!

「ほな、美神さん。そういうことですんで」
「……ちょっと待ちなさい」

 事務所を後にしようと、ドアノブに手をかけた俺。
 その俺に美神さんが声をかけてきた。
 ……なんだろうか?


  コメント
 おおっ! 珍しくエロティックじゃない!
 えーまあ、そんなことを不満に感じる人なんていないですよね?
 エッチなのはいけないって、某メイドさんも言ってたじゃないですか。


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