「355円でどうっ? 105円も高いわよ」
「安っ! ごっつ安っ!」
「くっ、これでも駄目なの。ごうつくねぇ〜」
「だから何回も言ってるじゃないですか、安すぎるって」
美神さんの「時給応相談」という言葉で始まった銭闘。
わかってたけど、ほんと安いな。この人は本当に俺を雇いたいんだろうか?
250円では働かない、という俺の言葉にそれなりの額の提示が為されたわけだが。
「最初は500円だったやないですか。それでさえ普通のバイトより安いっちゅうのに……」
「なによ、私のところで働けるのよ。500円でも高すぎるくらいよ。ほら350円!!」
「せやからこれ以上下げてどないするっちゅうねん!?」
「だって私ぐらいのもんよ。霊力のないあんたを雇ってやろう、なんていう霊能力者は。
どうせあんただって霊能力者にならないといけないんだから、師事するんなら私の所にしときなさいよ」
実は、まったくもって美神さんの言い分は正しい。
霊能力をまったく持たない今の俺では、他所の除霊事務所や霊能力者は雇ってくれないだろう。
金を出して単なる荷物持ちを雇うくらいなら、駆け出しのGSを雇った方が都合がいい。
簡単な除霊もさせられて、荷物持ちだってさせられるし、俺だったらそうする。
まあ、時給250円で雇える荷物持ちがいるんなら雇うかもしれんけど…って俺のことだけど。
そして、美神さんの言うとおり、俺はGSにならないといけない。
あの戦いに参加するには。彼女に逢うためには。そうして、彼女を救うためには。
あの時よりも力を持ったGSになっていないといけない。
それは、絶対条件だ。
そのためには、優秀なGSのところで修行するのが確実な方法であるのは間違いない。
そして、美神さんが優秀なGSであることも間違いない……色々問題のある人であることも間違いないけどさ。
「ほら、300円! なに、まだ不満なの? ほらほら295円!!」
「―――っていつの間にか300円台切ってる!?」
「どうせ私の事務所で250円で働くしかないんだから、早めにサインしといた方がいいわよ。290円!!」
「あぁっ! また下がった! って今物凄いいやな言葉があったような気がっ!?」
でも俺にも考えがある。美神さんは日本随一の優秀なGSだが、唯一ではない。
優秀なGSなら他にもいるのだ。
―――そう、美神さんの師匠とかね。
「―――美神さん、俺やっぱりここでは働きません」
「28……へ? じゃっ、じゃあ、どーすんのよ、あんた。GSになるんじゃないの!?」
「別に美神さんの所で働かないとなれないわけじゃないですし。美神さんの他にもGSはいるじゃないですか」
「でも、私くらい優秀なGSがそうそういるわけじゃ……って、まさかあんた」
「美神さんの先生―――唐巣神父の所で修行しようと思います」
「あ、あのね……唐巣先生は確かに優秀なGSだけど、貧乏よっ! 給料なんて出るわけないじゃない」
「それは他所でバイトするなり、唐巣神父のとこの依頼人からきちんと礼金を貰うことにします。
……美神さんもそうしてたんでしょう?」
俺の言葉を聞くと、小さく舌打ちをし右手親指の爪を噛みながら、悔しそうな顔をする美神さん。
ふっふっふ、この銭闘、俺の勝ちのようやなっ!
あとは唐巣神父さえうまく騙くら、げふんげふん、熱意を伝えて弟子にしてもらえれば、俺の完全勝利や!!
「ほな、美神さん。そういうことですんで」
「……ちょっと待ちなさい」
事務所を後にしようと、ドアノブに手をかけた俺。
その俺に美神さんが声をかけてきた。
……なんだろうか?
コメント
おおっ! 珍しくエロティックじゃない!
えーまあ、そんなことを不満に感じる人なんていないですよね?
エッチなのはいけないって、某メイドさんも言ってたじゃないですか。